幼少期 👶👴
絵を初めて認識した瞬間
絵を初めて認識した瞬間
私が「絵」というものを初めて認識したのは、祖父の描いた絵を見たときのことです。祖父の家の壁に飾られたその作品たちは、幼心にも「すごいなぁ」と感嘆させられるものでした。
中でも鮮烈に覚えているのが、瀬戸大橋を描いたスケール感抜群の油絵です。
ある日、祖父がカレンダーに載っていた別の瀬戸大橋の絵を指差しながら、「あんな絵より、わしの方が数段うめえ!」と豪快に笑っていました。
その言葉には根拠のある自信が宿っており、実際に祖父の絵のほうが遠近感もスケール感も圧倒的で、「すげえ!」と胸を熱くしたのを覚えています。
寡黙で控えめな祖父が、自分の絵について語るときは別人のようでした。彼が私に残した言葉の中で特に印象的だったのは次の3つです。
特に「光と影をよく観る」という教えは、私自身も絵を描く中で常に意識している重要なポイントです。
祖父の絵の中でも特に特筆すべきなのが、「溶金画」という独自の技法です。
これは、異なる種類の金属を溶かして一枚の絵に仕上げるという非常に珍しい手法で、祖父はこれを誇りにし、特許まで取得しました。
元々家具や遊具を修理する「職人」としての器用さを持つ祖父が、絵画と職人技を融合させて生み出した芸術だったのです。
しかし、この技法は難易度が高く、弟子入りを志す人たちも誰一人としてマスターすることができませんでした。
祖父が培ったスキルと長年の修練があってこそ成立する技術だったのです。
私がまだ子どもだったこともあり、祖父から溶金画を学ぶ機会はありませんでした。
そして、その技術は残念ながら誰にも引き継がれることなく、祖父とともに幕を閉じました。
それでも、祖父の絵は語りかけてきます。「ここに私の思いがある」と。
祖父は88歳で大往生しました。彼の描いた作品は、今も私のアトリエに飾られています。
その絵を見るたびに、私は祖父の情熱と技術、そして絵に込められた魂を感じています。
まるで祖父が私の制作を見守り、そっと背中を押してくれているようです。
祖父が教えてくれた「光と影をよく観る」――その言葉は、私の中で生き続けています。
そして私もまた、自分だけの表現を模索しながら、絵と向き合っていこうと思います。